Ⅲ-5 やせ(痩身)の体質改善
ここまで、さまざまな角度から肥満に重点を置いて、述べてまいりました。ここでは「やせ」の体質改善の基本について述べます。
「やせ」の評価基準は、標準体重のマイナス11%以上としているものが最も一般的なものです。「やせ」とは、「脂肪組織の中の中性脂肪や、筋肉組織の中のたんぱく質などが減少した状態」と定義されます。この状態を放置していると、骨格系や神経系にまで障害を及ぼす危険があります。
肥満とは、過体重ではなく、「体構成に占める脂肪組織量の過剰蓄積状態」であると、すでに述べました。肥満が、脂肪の量を基準に定義しているのに対して、「やせ」は、除脂肪体重を含めた体重の減少が基準としている点で根本的に異なります。「やせ」の原因をみると、肥満は食べ過ぎと運動不足による単純性肥満がほとんどですが、「やせ」は、単純性のものはほとんどありません。むしろ、何らかの疾患が原因となっている「症候性のやせ」がほとんどです。先天性やせ・体質性やせ・単純性やせなどは、臨床学的には、あまり問題がないとされています。問題となる「症候性のやせ」の主なものは、次の通りです。
(1) |
カロリーの供給不良 |
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摂取不良、摂取障害、食欲不振、拒食、吸収不良、利用・貯蔵障害など
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(2) |
エネルギーの消費亢進 |
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代謝亢進、排泄亢進など
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このように、「症候性のやせ」は、原因となる疾患を治療することが先決です。この点で、肥満の大部分を占める単純性肥満と、やせの解消とは根本的に異なります。やせの解消は、
(1) |
食事療法 |
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(1)-1 |
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充分なカロリーを摂取すること。
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(1)-2 |
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脂肪を重点的に増加させようとしないで、筋肉を増加させることが重要です。
そのためには、良質のたんぱく質を多めに摂取するようにします。成人女性の標準的摂取量「60g/1日」に対して「90g/1日」程度が目安となります。
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(1)-3 |
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ミネラル・ビタミン・食物繊維なども多めに摂取します。
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(2) |
運動療法 |
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「やせ」の運動療法は脂肪を減らすことより、筋肉を増強しているという意識を持ってトレーニングすることが重要です。実施の着眼点は、日常的な機能のレベルを少し上げた状態の運動を、一定期間継続することが大切です(過負荷の原則)。また、いきなり強い負荷を加えると、事故や怪我のもととなるので、あせらず徐々に負荷を上げていくようにします(漸進性の原則)。
最後にどのようなトレーニングも定期的に反復施行して初めて有効になること(反復性の原則)、などを心がけることがポイントとなります。
具体的には、肥満の体質改善と同様に、次の4種類の運動が基本となります。
(2)-1 |
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健美ストレッチング
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(2)-2 |
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健美体操
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(2)-3 |
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ステップアップ・ウォーキング
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(2)-4 |
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アイソメトリック・トレーニング(IT;Isometric Traininng)
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これらの運動を現状の体力に合わせて、徐々に(過負荷の原則)、段階的に(漸進性の原則)、繰り返して(反復性の原則)行うためのトレーニング計画を立てるようにします。(詳細については各論運動編で述べます。)
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