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「総合的健康美学論 その理論と展開 (第1巻)」 総論編

Ⅱ-1-6 女性と脂肪

 女性の体脂肪は、出産・子育てなど、男性と大きく異なる機能や特性を備えているため、通常、男性より10%程度多いといわれています。皮下脂肪などによって、腹部や身体全体が丸みを帯びているのは、出産・子育てに際し、妊娠中の胎児の保護や飢餓に備えるためのものです。

 したがって、母体という機能や特性を備えている女性の身体は、その準備期・母体期・終焉期など、生涯を通じて変化します。具体的な成長過程は、幼児期・思春期・成人期・更年期などに分けられます。このような男性と異なる大きな変化は、女性ホルモンの働きや変化によるものです。女性ホルモンは、生涯を通してさまざまな働きをしますが、なかでも特徴的な働きが、脂肪の生産や備蓄に大きなかかわりを持っていることです。もちろん男性にも女性ホルモンはありますが、その量はごく少量です。
 女性ホルモンは、一見すると肥満の敵のように思えますが、女性特有の美しいラインをつくり出すなど、大切な役割を果たしています。


Ⅱ-1-6-1 児童期から思春期

 幼児期には、身体的な男女差はほとんどありませんが、児童期の後期頃から内分泌腺の働きが活発となり、しだいに思春期へと向かいます。女性ホルモンの分泌が活発になると、体重は急速に増加します。当然皮下脂肪は、児童期頃の2倍近くに達します。同時に女性らしい身体つきへと成長してきます。

 思春期には急速な体重の増加と、運動不足などとあいまって、拒食症や過食症、いわゆる摂食障害から、思春期肥満へと進むことも少なくありません。運動や食習慣に関わる生活習慣の基盤は、児童期の前期までに、そのほとんどが決まるといわれています。
 この意味で、肥満を招く生活習慣の基盤は、幼少時の親の生活習慣に大きな影響を受けるといえます。思春期の精神的な不安定な時期を無事に通過すると、しだいに体重も安定した状態へと向かいます。


Ⅱ-1-6-2 成人期

 成人期の女性の重大な関心事は、結婚・妊娠・出産・子育てといえるでしょう。妊娠中は、胎児の安全を考え、日常の生活と比べても、運動量が少なくなります。一方、食事の内容は、胎児の成長や栄養バランスなどに対する配慮から、摂取量が増加し、過食傾向が強くなります。摂取量の増加と運動不足は、肥満に拍車をかける結果となります。

 出産後は、母乳維持のため、過食傾向が継続されることとなります。この時期の女性は、妊娠・出産・子育てを通して、運動不足や食習慣などの生活習慣の悪化を招く環境と精神状態に陥りやすいため、注意を要します。また、成人期の肥満は、生理不順や異常、卵巣機能障害などを招きやすく、不妊症へと進む危険があります。


Ⅱ-1-6-3 更年期

 女性は、40代半ば頃から更年期に入ります。更年期には、女性ホルモンの分泌および排卵能力が低下し、生理不順が目立つようになります。更年期という時期は、子供の自立や配偶者の社会的地位の獲得などによって、家族との交流や緊張感の減少と重複する時期となるような傾向があります。
 さらに、更年期の自律神経失調症や情緒不安定などの条件が重なり、過食傾向に陥る場合もかなりみられます。またこの時期は、加齢とともに基礎代謝の低下が目立ってくる時期でもあります。そのうえ、日頃の運動不足の習慣が加わり、肥満へ一直線に進む条件が揃ってしまいます。

 こうした状況のなかで、肥満による体内脂肪は、女性ホルモンの代謝障害を招き、子宮体がんの主要な原因となります。女性ホルモンの更なる低下は、動脈硬化や骨粗鬆症へと進む大きな要素となります。

 この時期の肥満は、このように深刻な危機へと進む可能性をはらんでいるため、注意を要します。肥満を解消し、情緒の安定をはかり、自律神経系の働きを改善するためには、普段からの「生活習慣の改善・運動の継続・ストレスの軽減や解消」などが重要です。この時期の女性ほど、実年齢と身体年齢に、驚くべき個人差の生じることはありません。
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