Ⅰ-4 東西の理論と技術を「美」のもとに融合
運動・栄養・心理、施術の各分野に東西の思想・学識・技術・情報などを導入することにより、考え方や技術の間口・奥行き・深さなどが拡がります。その結果、単に信頼度が高まるだけではなく、研究や実践に対して、興味や感心が持ちやすく、角度や切り口が増加します。また臨床技術のより広汎な進歩や組み合わせなどによる、新たな技法や効果が期待されます。
例えば、運動や心理のなかに、西洋的な腹式呼吸法や自律訓練法を取り入れるのと同様の考え方で、東洋的な気功を取り入れ、また、西洋的な栄養学の考え方に、東洋的な薬膳の考え方を導入します。施術やスポーツマッサージに、経脈や経穴(ツボ)の理念を取り入れています。
これらはほんの一部の紹介にすぎません。実際には、東西の理論や技術を、運動・栄養・心理、施術の各分野の理論や臨床に、系統的・理論的・合理的に組み込んでいます。こうした試みは、美や健康の研究・実践のなかに、新鮮なより深い味わいや楽しみを生み出しています。
総合的健康美学論「技術編」においては、現在の中国医学の中枢を担っている大学中医学院の指導書として知られる「経絡学」を基礎理論としています。さらに、4000年の歴史と実績をいまに伝える中国医学の本随を、「総合的健康美学論」という新たな視点から再構築し、「経脈施術法」へと進化させています。
東西の理論や技術の違いを、批判するのではなく、その良さを評価し認めることが重要です。拒絶するのではなく、素直に受け入れ、体験を通して味わってみることが、すべての出発点です。体験を通して感じ、味わった些細なヒントが、理論や技術へと発展し、審美眼を根本的に変えてしまうことも少なくありません。
東西の理論と技術の融合、および今後の展開については、それぞれの各論において、実践的な形や品性、変革や挑戦となってさまざまな場面に現われています。現代の中国においても、中国伝統医学(中医学)と現代医学を融合させ、さまざまな試みと改革が進められています。それは中医学と西洋医学を連結させるという意味から、「中西結合」という言葉を生み出しています。
Ⅰ-5 心理学的アプローチによる、内面からの美の探究と自己実現
心の状態は、表情やまなざし、肌や髪、態度や姿勢などとなって現われてしまいます。心の葛藤やストレスの多い人は、動脈硬化や肥満になりやすいことも、医学的に証明されています。内面の美しさやゆとりは、外面の美しさやあでやかさに比例します。
「美の恒常性」を維持するためには、心の葛藤やストレスなどに対する抵抗力をつけなければなりません。また、心の葛藤やストレスなどを、心の中に蓄積しないようにする技術、心の外に追い出すための技術なども学び、身につけることが重要です。
運動によって、筋肉や骨格、細胞や内臓などが鍛えられるのと同様に、心もトレーニングによって、強く、美しく、優しく、しなやかになります。心のトレーニングメニュー(心理カウンセリング計画)を作成するためには、さまざまな心理検査などにより、改善やトレーニングのための客観的な情報を得ます。基本的な心理検査の実施、および検査情報の分析技法などについては、心理編で詳細に述べます。
心の葛藤状態に陥りやすい人、いったん陥ると脱出が苦手な人、ストレスをためやすい人、心身症や極端な落ち込みを起こしやすい人などには、普段の「生活様式や行動等の問題・感情表現・思考方法」などに多くの共通点があります。このような基本的な問題や習慣に対する「気づき」や修正のための援助が、基本的なカウンセリング理論および技法です。
なかには、それほどひどく落ち込むことは少ないのですが、落ち込みやすいタイプの人もいます。このような人には、自己コントロール法が有効な場合が多いようです。また、心理的な特別の問題はないが、いわゆるソーシャル・スキル(Social Skills)のレベルが低いというだけで閉じこもりや、ひきこもり傾向の強い人も少なくありません。このようなタイプの人には、自己主張訓練等のソーシャル・スキル・トレーニングなどが有効といわれています。これらの基礎カウンセリング理論や技法、基本的な自己コントロール法、自己主張訓練をはじめとするソーシャル・スキル・トレーニングなどについても、心理編で詳細に述べます。
さらに、「本人の訴え(主訴)や身体に現われている症状」、「睡眠・覚醒・活動・疲労・睡眠への一連のサーカディアンリズムの異常」、「環境の問題」、「将来に対する予期不安」など心の葛藤やストレスの、背景に眼を向けることが重要です。
「なぜそうなったのか?」や、「なぜそんなことをしたのか?」ではなく、「何がそうさせたのか?」、「そのとき何を考えていたのか?」などに心を向けることです。心理的な意味で「否定的な背景や習慣」を気づかせ、肯定的援助によって内面からの美を探究し、自己実現に導く援助法が心理編のめざすところです。