Ⅱ-1-6-4 生理周期と肥満
女性の体温は、月経周期をサイクルとして低温期と高温期に分かれています。月経から排卵までは、エストロゲンというホルモンの分泌が盛んになる時期です。この時期は、低温期と呼ばれ、基礎体温が36.7度より低い傾向があります。
高温期に入ると、エストロゲンの濃度は低下し、その代わりに、プロゲステロンというホルモンの分泌が増加します。プロゲステロンは、
(1) 受精卵が着床しやすいように子宮壁を厚くする。
(2) 運動量を低下させる。
(3) 水分を蓄える。
(4) 食生活の簡略化(インスタント食品・レトルト食品の普及など)
(5) ストレス
などの働きをします。すなわち、「体重を増加」させる働きをしていることになるわけです。したがって、当然個人差はありますが、生理前の高温期には、減量の効果が出にくくなることを、承知しておくことが肝要です。
Ⅱ-1-6-5 脂肪細胞と貯蔵脂肪組織
摂取エネルギーから消費エネルギーを差し引いた残りが、最後に脂肪となり、脂肪細胞の中に蓄えられます。この脂肪細胞の集まった組織を貯蔵脂肪組織といいます。肥満とは、貯蔵脂肪組織が異常に大きくなった状態です。貯蔵脂肪組織には、皮下脂肪と体内脂肪とがあります。体内脂肪は、内臓周辺・大腸・腸間膜・関節や太い血管の周辺・筋肉内部などで貯蔵脂肪組織を構成しています。
脂肪細胞の大きさは、通常80~120ミクロンで、球形をしています。余剰エネルギーをたくさん貯蔵した結果、200ミクロンに達するものも見られます。一般成人には、このような脂肪細胞が250億個~300億個程度あるといわれています。
脂肪細胞の最も重要な特性は、そのほとんどが死滅しないということです。細胞中の脂肪がエネルギーとして使われた後も、脂肪細胞は、萎縮したまま余剰エネルギーを常時貯蔵できる体制を整えて待ち続けています。
脂肪細胞が貯蔵するための脂肪を、受け入れ肥大することと、脂肪細胞の数が増加することが、肥満に通じます。脂肪細胞は、成人までに徐々に増加しますが、なかでも急激に増加する時期が3回あるといわれています。
(1) |
出産の前3ヵ月の胎児の時期 |
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妊婦が肥満状態になると、胎児の脂肪細胞が増加します。母親の食べ過ぎという食習慣が、胎児期に細胞レベルで肥満児を育てていることになります。まさに母親の無知による不注意といえます。 |
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(2) |
出生直後の1ヵ月間の乳児期 |
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乳児期の初期に太り過ぎや肥満傾向が強くなると、将来の肥満へと発展する危険性が高まります。まるまる太った赤ちゃんが健康だという考え方は将来に問題を残します。現在は、赤ちゃんも引き締まった身体に育てることが求められています。 |
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(3) |
思春期の初期 |
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思春期の脂肪細胞の増加は、胎児期や、生後1ヵ月の増加傾向ほどではありませんが、それでも女性ホルモンの分泌が増加し、皮下脂肪が急増する時期です。運動不足に加えて、インスタント食品やファーストフードなどによる偏った栄養の過剰摂取は、近い将来の肥満への危険因子を抱えることとなります。 |
Ⅱ-1-6-6 脂肪の役割
皮下脂肪や体内脂肪の最も重要な役割は、エネルギーの備蓄です。人類は、何十万年ものあいだ、飢餓と食物の確保の歴史を繰り返してきました。今日の日常生活では、脂肪を体内に備蓄する必要性はほとんどあり得ません。むしろ、健康的に過剰な脂肪をいかに減らすかが課題となっています。
脂肪は、緊急時に対するエネルギーの備蓄という役割の他に、
(1) 内臓の保護と正常な位置確保のための緩衝剤としての機能
(2) 体温の保持機能
(3) 絶妙にバランスのとれた皮下脂肪による、女性らしさの身体的表現
などがあげられます。
通常標準体重に対して、80%以下に痩せている状態を拒食症(摂食障害)といいます。この状態になると、体脂肪率は10%以下になることも珍しくはありません。当然、体温の保温機能が低下するため、夏は異常に暑く、冬は異常に寒く感じることになり、風邪などを引きやすい体質となります。また、内臓などの緩衝剤としての脂肪が極端に減少しますので、胃下垂をはじめとするさまざまな問題が起きてきます。
適量の脂肪が、体温や身体のバランスをとっています。また絶妙にコントロールされた皮下脂肪は、美しいボディラインを形成しています。このように脂肪は、女性美を象徴的に表現している立役者でもあります。