Ⅱ-1-1 肥満の評価
肥満は、身体的な脆弱化や体力・予備力・抵抗力などの低下を招き、精神的にも意欲の低下や情緒不安定などの傾向がみられます。さらに肥満は、前述した通り、深刻な生活習慣病や成人病の元締めのような存在となっています。したがって、総合的健康美学論では、肥満を病気ではなく、病気の意識のない未病段階と考え、「健康美を脅かす障害(健康障害 Wellness Disorder)」と、とらえています。そして、この障害を取り除くためには、肥満に対する評価基準と評価方法を学ぶことが重要です。
肥満を的確に評価査定する方法は現在のところ開発されていません。このため、身長を基準とした標準体重を設定し、過剰部分の体重の比率を肥満度として判定する方法が最も一般的です。
標準体重の算定方法には(身長-100)×0.9で求める Broca の桂変法や、実測体重÷(身長×身長)で求められる Body Mass Index(BMI)指数などさまざまな研究や開発が進められてきました。最近、日本肥満学会より標準体重について、次のような統一基準が示されました。今後はこの基準が普及していくものと考えられます。
日本肥満学会は、体重(kg)÷(身長×身長)で求められる指数が22のときに、最も疾患の合併率が少ないという統計データに基づいて、「標準体重=身長×身長(m)×22」の算式を標準体重算定基準としています。日本肥満学会では、この基準によって算定された標準体重に対しての肥満度が、30%以上の場合を「肥満症」として治療の対象としています。総合的健康美学論では、この基準での肥満度10%から29%までを未病段階とし、±10%以内を目標に置き、この範囲を健康体重と呼んでいます。
しかし、表面に現われた肥満という現象は、機能的・構造的・精神的なさまざまな条件が、日常生活や習慣を通して複雑にからみ合っています。1つの方向や基準によって、すべてを評価するのではなく、体脂肪全体を把握する意味で体脂肪率や、身体表面からの脂肪組織の厚み(皮脂厚)を実測するなどの評価を加えることが重要です。
体脂肪率の測定法には、水中体重法がよく知られています。最近では、体重と体脂肪率の両方の測定が可能な計器が普及しています。また、皮脂厚法は、皮脂厚計を用いて、肩甲骨下端部と上腕中央伸側の皮脂厚を計測し、その合計値によって評価します。
Ⅱ-1-2 肥満と死亡率
男女とも肥満傾向が強くなると、その度合いに比例して死亡率が高まることが知られています。具体的な内容は次の通りです。
肥満と死亡率の関係を死因別にみると、心臓・血管系の疾患では、標準体重を24kg上回ると標準体重の人に比べ、131%、33kg上回ると155%、42kgの超過では185%の死亡率に達します。
その他、肥満者は標準体重者に比べて、糖尿病による死亡率が約4倍、胆石による死亡率が約3倍、虫垂炎・慢性胃炎・脳出血・冠疾患による死亡率が約2倍、肝硬変による死亡率が約1.5倍、自動車事故による死亡率が約1.5倍に達します。(米国生命保険会社統計)
肥満者に対する言葉として、痩身者(やせ)という表現があります。いわゆる「やせ」とは、貯蔵脂肪量や筋肉量が異常に減少した状態をいいます。標準体重の範囲を、おおむね±10%に置きると、「やせ」は標準体重の10%以上の減少ということになります。
現在は、肥満型に対して、やせ型のほうが長寿の傾向があります。しかし、標準体重より20%を超えたやせ型は、むしろ短命であることにも注意を払う必要があります。死亡率や長寿を問題とする場合は、標準体重の下限であるマイナス10%前後が健康で安全な「やせ型」といえるでしょう。