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Ⅱ 健康美阻害要因
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戦後半世紀間の科学技術の発達は、それ以前の数世紀に匹敵するほどの驚異的な進化を遂げています。豊かで、健康的な、利便性の高い社会や生活が可能になったといえます。しかし、生物学的な立場から「ヒト」の生命や健康を考えるとき、このような利便性の高い文化や生活が、すべて有益なものとはいえません。顧みると、貧しさや不便さが、思考・行動・感情などを育て、筋肉や身体をたくましく鍛えてきたことも事実です。
生まれながらにして「不自然な人工的な環境」を「ごく自然な環境」として受け入れきた現代人にとって、特有の歪みが社会・生活・健康などあらゆる面に現われてきました。例えば、大気・水質・土壌や自然の生態系を軽視した技術革新、産業構造の変化、都市化などは、環境汚染や公害など、文化的な生活を根底から破壊しかねない健康問題・安全問題に発展しています。
自己美探究の基本となる健康に目を向けると、生活水準の飛躍的な向上は、食生活の改善と洋食指向などを通して、体位の向上・発達と栄養改善をもたらしました。しかし、一方では飽食的食習慣などから、肥満が急増し成人病の原因となっています。また、交通機関や自動車の発達・普及、諸設備や電化製品の急速な普及は、家事や労働事情を一変させました。
青少年には、身長や体重の発育促進化といわれる、いわゆる大型化が急速に進んでいます。その結果、高身長・長脚・筋肉や筋力の未発達な「痩身タイプ」と、成人には、運動能力の低下と運動不足による「肥満タイプ」の、両極端な「痩身と肥満」が増加する現象が強くなっています。
子供の生活に目を向けると、高度経済成長による豊かさの実現とともに、少子化と核家族化が同時進行しています。また、高学歴化社会の到来による受験戦争や都市化による遊び場の不足と、テレビやテレビゲームの普及は、運動の機会を奪い、体力の低下をもたらしています。さらに、偏った食生活と相まって、小児肥満が激増し「小児成人病」という言葉も珍しいものではなくなっています。今や、生活習慣病といわれる「成人病予備軍」は小児期までさかのぼって歪みをもたらしています。
完全な健康と死の間には普通の健康と病気があります。普通の健康と病気の間を「未病」と呼んでいます。心身ともに健康な、固有美の真価を引き出すためには、「未病」状態を完全な健康に近づけることが重要となります。これらを総合すると、未病・運動不足病・生活習慣病・成人病などといわれる、いわば健康美の阻害要因を、徐々にかつ確実に取り除かねばなりません。そして、「未病・運動不足病・生活習慣病・成人病」などの「共通項」として、その根底でしっかり根をおろしているのが「肥満」です。
このような意味で、現代の健康美の追求は、生活習慣病としての肥満の研究であり、肥満との戦いと言っても過言ではありません。自己美探究とは、その過程で「自然な心や身体の美しさ」を取り戻し、本物の自分へ回帰することに本来の意義があります。したがって、自己美探究の健康的基盤を確立することも、総合的健康美学論の主要な目的の1つです。そのためには、「肥満や脂肪」の実体について、正しく認識することが重要です。