Ⅰ-3 「3×3理論」と「総合的健美計画」
Ⅰ-3-1 第1段階(Primary Process) 導入と動機づけの基礎過程
「美の恒常性の三角形」をめざすためには、3×3理論によって歪んだ生活習慣を修正し、まず「生体の恒常性」を回復することが重要です。「生体の恒常性」は「美の三角形」を支えるための基本であり、背景的なエネルギーとなります。
「生体の恒常性」から「美の恒常性」への掛け橋となる考え方や、その実践のための理論が「3×3理論(Three by Three Theory)」です。それぞれが、3つの要素で構成されている3本の柱で支えるため、「3×3理論」と呼んでいます。
「3×3理論」における3本の柱とは、「運動」「栄養」「心理」などで、それぞれの間で相関関係があることは、言うまでもありません。さらに、これらの3本の柱に支えられた指導・施術理論およびその実践技法によって、「生体の恒常性」から「美の恒常性」への実践が可能となります。
言い換えると、自律神経・内分泌・免疫などの各系統が安定する状態、すなわち、「生体の恒常性」が保たれていることが、「美の恒常性」への出発点ということになります。したがって、生体のバランスに問題のあると想定される場合は、「3×3理論」により、「生体の自然治癒力・自力回復力」を促進して総合的に調整し、「自己健康感」のレベルを向上させることが優先されます。
3本柱のそれぞれの構成要素については、「運動」の3要素が、「安全性・継続性・効果性」などであり、「栄養」の3要素が、「適質・適量・適熱量(適正なカロリー)」などであり、「心理」の3要素が、「感情・思考・行動」などです。
「3×3理論」を適正に計画に乗せるためには、健康状態や歪んだ生活習慣などの情報を正確に収集し、分析することが重要です。そのためには、健康行動の自己評価尺度および各種の運動・栄養・心理などのさまざまな検査や評価基準を利用して、生活習慣に現われている具体的な歪みの概要をそれぞれの観点から測定します。(これらの評価尺度および評価基準などについては、施術編など各編で詳細に解説いたします。)
これらの検査や面接、本人の希望や計画、課題などの情報を、総合的に分析します。分析結果は、運動編(Physical Training Theory)、栄養編(Nutritional Training Theory)、心理編(Psychotherapy)、など3つの分野の基本理論に沿って調整されます。
さらに、運動・栄養・心理と施術編(Technical Operations Theory)のバランスをはかりながら、無理のない、合理的な指導・施術メニュー(第1段階 Primary Process Plan)が立てられ、総合的なトレーニングが開始されます。
第1段階が終了すると、生体の恒常性は、かなりの水準までステップアップします。この段階では、いわゆる心身症的な症状や、ストレス障害的な感覚はほとんど解消される状態になっています。具体的には、肩こり・めまい・片頭痛・便秘・下痢・生理不順・睡眠障害などの慢性的な症状がなくなったり、かなりの段階まで軽減されます。同時に自己健康感が定着し、第2段階 Advanced Process への動機づけとなります。
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第2段階(Advanced Process) |
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基礎的訓練から総合的健美トレーニングへ |
第2段階では、3by3理論(運動・栄養・心理)、施術および宿題など、5つのすべての分野の計画が見直されます。新たに「総合的健美計画(第2段階)」が立てられます。総合的健美計画に基づく「指導・施術・宿題」を健美トレーニングと呼んでいます。総合的健美計画は、「指導・施術・宿題」などの実践の経過を、定期的に総合評価し、「総合的健美計画」にフィードバックされ、計画の調整・修正・変更などが行われます。
このように「実践過程の評価と計画へのフィードバック」を繰り返しながら、「真美」、「心美」、「身美」などの3つの美がバランスする状態、すなわちその人特有の「美の恒常性の三角形」が完成します。
Ⅰ-3-3 第3段階(Stable Process) 定着から安定へ
「美の恒常性の三角形」の完成は、総合的健康美学論の目的ではなく、むしろスタートラインといえます。最良の状態を安定させるための「定着メニュー(計画)」は、過去の経緯やその人特有の過程をもとに作成されます。
「定着メニュー」は、通常数ヵ月間程度実施され、適宜安定状態を評価し、確認します。とくに問題がなければ、運動・栄養・心理および施術のあらゆる分野から検討された、「維持・管理のためのメニュー」が作成されます。
このメニューは、運動・栄養・心理および施術の各分野から「美の恒常性の三角形」を維持するため、いままでに改善された主な生活習慣のリストが付けられるため、「トゥリーティッド・カスタムリスト Treated Customs List」と呼ばれています。「自己実現」のための新しい習慣のリストでもあります。
Ⅰ-3-4 検査・評価等の実施基準と評価
「第1段 階導入と動機づけの基礎過程」から、「第2段階 基礎的訓練から総合的健美トレーニングへ」、さらに、「第3段階 定着から安定へ」などの、各段階への移行期の検査・判定等の実施方法および、その基準や目安などについては、各論の「検査・評価などの実施要領」において詳細に述べます。
Ⅰ-3-5 3 by 3 理論(Three by Three Theory)
Ⅰ-3-5-1 自己健康感を支える3つの条件
本物の美しさを享受し、それを味わい、楽しむためには、心身ともに健康であることがすべてに優先することは言うまでもありません。一方、運動不足で、偏った食生活を続け、歪んだ感情表現や思考・行動に気づかない状態で、美への欲求だけは異常に膨張している人も少なくありません。
3by3理論の目的とするところは、「自己健康感を感じながら、生きる実感を確認できる生活」を習慣として定着させることにあります。これが「美の恒常性(真美・心美・身美)」維持のための背景的・基本的エネルギーとなります。「自己健康感を感じながら、生きる実感を確認できる生活」を習慣として定着させるためには、次に掲げる3つの原則が前提となります。
(1) サーカディアンリズムの維持の原則
(2) 未病段階での生活習慣の改善の原則
(3) 体験を通した自己変革の原則
Ⅰ-3-5-1-1 サーカディアンリズム(Circadian Rhythm)の維持の原則
私たちは、朝になると眼を覚まします(覚醒)。そして次に運動をしたり、仕事をしたりします(運動・活動)。運動や仕事を続けると身体が疲れてきます(疲労)。夜になると、日中働いてたまった疲れを取るため休んだり、眠ったりします(休息・睡眠)。こうした一連の流れをサーカディアンリズムといいます。
具体的には覚醒→エネルギー補給→運動・活動→疲労→休息・睡眠→覚醒と規則正しく続く生活リズムを維持することを意味します。この間に、規則正しい方法で1日3回栄養とエネルギーの補給がなされます。
偏った生活習慣・ストレス・病気・心の葛藤などから、サーカディアンリズムに大きな支障が生じます。また、逆にサーカディアンリズムの問題から、生活習慣の偏り・ストレス・病気・心の葛藤などへ発展することも少なくありません。
アメリカの大きな病院では、サーカディアンリズムの問題を専門に修正・改善するための、アクティヴィティ・セラピスト(Activity Therapist)という専門家が配置されているくらいです。サーカディアンリズムとは、人として活き活きした生活をするためのリズムです。
Ⅰ-3-5-1-2 未病段階での生活習慣の改善の原則
私たちの身体は、ある日突然、何の前触れもなく病気や障害に陥ることはありません。例えば、塩分のとり過ぎから高血圧に、偏った食生活から肥満へと進みます。高血圧や肥満は、糖尿病や高脂血症の原因として重要な因子となります。高血圧症や糖尿病、高脂血症となれば立派な生活習慣病です。一般に生活習慣病といわれる成人病や慢性疾患は、一度発病すると完治は容易ではありません。
病気や障害の段階や定義、診断基準にはあてはまることはなく、症状もほとんどないが、検査や生活習慣を検討すると、「近い将来に大きな問題の発生が容易に予見される」、というような状況を、中国伝統医学では「未病」と呼んでいます。
生活習慣病とは、長期間にわたり慣れ親しんだ習慣や癖が原因ですから、禁煙や禁酒と同様に、改善や修正が非常に難しくなります。したがって、高血圧症に至る前に薄味に慣れる、糖尿病に至る前に肥満を解消するなど、いわゆる「未病」段階での早めの対策が重要です。「元気」と「病気」間の「未病」のサインは、心と身体の危険信号といえます。
Ⅰ-3-5-1-3 体験を通した自己変革の原則
私たちは、どのように素晴らしい理論であっても、効果の高く、効率の良い技術であっても、実際に生活や行動に取り入れることは難しいものです。ましてや、慣れ親しんだ習慣を改善することは、さらに困難なことです。
人は、心に感じてはじめて行動に移します。要するに感じて動くことが、感動なのです。人はまた、出会いによって変わることで大きな改善がなされます。出会いには、新たな人間性・理論・技術・環境などさまざまなものがあります。そしてこれらの出会いも、体験を通してはじめて変革へのエネルギーとなり得ます。体験を通した自己変革とは、生きている実感を行動のなかで、感じ、味わい、楽しむ心を育てることです。
理論や技術は、ある意味で絵に書いた餅ですが、いま、行動のなかで体験していることは、まぎれもない事実であり真実です。体験を通した自己改革のみが美の恒常性への道を拓いてくれます。
このような意味で「まずやってみる」、「とりあえず体験してみる」ことが大切です。このための助言も、教育・指導的オペレーションの第一歩となり得ることを理解しておくことが肝要です。